「マトラッセ」 という言葉は、もともとはフランス語の’matelasser’という言葉から来ており、意味はキルティング、綿入れにするという意味。ふっくらと、膨らんだ状態のことをいいます。
日本語では「ふくれ織」と言われ、柔らかく薄い生地を、性質の異なる2種類の糸を使用して織り込み、裏糸の張力で縫い合わされた部分はへこみ、
残りはふくらんで表面に立体的な柄が浮かび上がるというものです。
様々な柄を表現できるこの手法ですが、シャネルではキルティング素材ではないアクセサリーや雑貨も「マトラッセ」のラインに含まれています。
ことシャネルにおいては「マトラッセ」とは「ダイヤ型の格子状のデザイン」を指します。
1920年ごろ、当時は女性の持つバッグは全てハンドバッグ。ショルダーバッグは男性しか持たないものでした。
現代の私たちからすれば、ハンドバッグしか存在しない世の中などとても不自由なものです。
実際、当時の女性も両手を自由に使えず、手をあけるためにハンドバッグをどこかに置き、そのまま忘れてしまうこともよくあったのだとか。
けれど、だからと言ってそれを変えようとする人はいませんでした。
女性は荷物が少なく、両手をあける必要もない。何よりハンドバッグを持つ姿はとても「女性らしい」ものだったのでしょう。
これに異を唱えたのがココ・シャネルです。
「シャネル・モード」という帽子のアトリエを構え、当時の主流であった大きな飾りがたくさんついた豪奢なものとは対照的な、
シンプルでデザイン性の高い帽子を生み出し人気を得た彼女は、その斬新さとカリスマ性を武器に、洋服へと規模を拡大させていました。
シャネルは「バッグは美しいだけではなく、機能的でもあるべき」と考え、両手が自由に使えるショルダーバッグのデザインを生み出します。
一説に、これは第一次世界大戦において兵士が使用していたバッグからインスパイアされたものだと言われています。
それから約30年後の1955年。第二次世界大戦が終了し、ファッション界に復帰したシャネルは、長方形のフロントロックに、チェーンストラップが付いたショルダーバッグを発表しました。
これが「マトラッセ」の原型です。
発表された日にちなんで「2.55」と呼ばれたこのバッグは、発売から50年後の2005年に復刻版が発表。
また最近では、再解釈された「2.55」が、2016/17年の秋冬プレタポルテコレクションにも登場しました。
この「2.55」をアップデートしたのが、あのカール・ラガー・フェルドです。
1983年にシャネルのディレクターに就任した彼は、フロントロックをココマークに変更、ストラップのチェーンにはレザーを編み込みました。
私たちがよく知る今の「マトラッセ」は、ラガーフェルドの手によって生み出されたものだったのです。